2024/03/27 23:06
写真は私が制作した「ぬれ描き染め」訪問着の一部分です。
染め独特の柔らかい表情の美しさを目指して染めた作品です。
京染には、型染、糸目友禅、ロウケツ染め、等々、様々な伝統技法があり、
それぞれ「防染」という手法を用いて模様を染め出します。
防染による染めとは、蝋や防染糊等を布に塗ることで、染料が染まらない部分を作り出すことによって、染め進めるという考え方で模様を描き出す染色技法です。
其れに対して写真の作品に用いた技法は「ぬれ描き染め」という
「防染」をしないで直接、刷毛や筆で模様を描き染める技法です。
布を水で濡らした状態で染めるので、「濡れ描き」と言います。
この技法は染料の滲みを絶妙にコントロールしながら描き染めます。
その特徴は模様のキワが滲んで柔らかな印象の仕上がりになります。
かなり高度な技が必要でして、これを習得するには長い年月の修行を要します。
着物1反を染め上げるには、多くの手間暇が掛かりますので、
完成までには半年以上もの日数が掛かることも珍しくはありません。
そのため、どうしても高価な着物となってしまいます。
近年、京都の染色業界も技術革新が著しく、安価で早く染められるようになりました。
それは歓迎するべきことなのですがコストを優先するあまり、
染めの美しさをスポイルすることがないように進化していってほしいと願っています。
この様な、ぬれ描き染めを取り巻く環境の変化は、
染色作家数の減少という形で影を落としています。
今や絶滅危惧種的な染色技法となりつつある、
ぬれ描き染めですが、
手間暇をしっかり掛けた其の染めには独特の滲みや破墨の美しさ、
柔らかな表情、風格を備えた深い染色美があります。
このブログをご覧いただいている皆様には、
「ぬれ描き」で染めた本物だけが放つ美しさをぜひご覧頂きたいと願っています。